President’s message

未知なるものとの「対話」の場へ

 現代はパンデミック、気候変動、戦争など、私たち人類社会の目前に次々と地球規模課題が突き付けられる時代であると言ってよいと思います。これらに関連して世界の様々な場所で差別や分断が広がり、社会の中で格差の問題や閉塞感が露わになってきています。このように、これまで我々が前提としてきたさまざまな条件や常識が大きく変化しつつある今日だからこそ、私たちは過去から未来を見渡す長期的な視野に立って、学術が果たすべき役割を自覚し、新しい大学像の構築に取り組まねばなりません。
 東京大学は、未知と向かいあい、問いかけ、知ろうとする「対話」を大切にします。対話は、他者の小さな声にも耳を傾ける多様性の尊重や、社会との大きな連携にもつながります。このような対話を通して形作られる信頼があってこそ、地球環境のような人類共有の財産を皆で守っていくとともに、社会に広がる閉塞感を乗り越えることができます。
 人類が抱えるこうした課題に積極的に取り組む人材を育てることは、東京大学が社会から負託された使命です。多様な学問に基づく知を基盤に、学ぶものそれぞれがその好奇心を沸きたたせ、仲間との対話を豊かに織りなす機会を充実させるなかで、他者を尊重する精神と創造性を育みます。また、自らの学びが社会の中でどのように位置づけられ、また活用できるのか、これを知るための総合的な学びの機会も用意したいと考えています。
 本冊子に紹介されているように、東京大学は教育・研究面はもちろん構成員の面でも多様性豊かで、さまざまな国や地域の人たち、異なる考え方やバックグラウンドを持つ学生が入学しています。大学には、そうした多様な人びととの出会いの機会があります。さまざまなバックグラウンドを持つ人々が集う環境で学ぶことは、学問を深め、学ぶものそれぞれが自らを高める絶好の機会です。その学びの中で、同僚や先輩との世界に広がるネットワークを構築することは、皆さんの人生にとって貴重な財産になることでしょう。
 こうした大学での学びへの備えとして私たちが最も大切だと考えているのは、単に知識の量ではなく、得た知識を組み合わせて創造的に使いこなす力や、未知の課題に遭遇した時に自らに不足する部分を積極的に学ぶ姿勢を身につけていることです。東京大学ではこうした力や、主体的な学びへの強い意欲を持った学生を幅広く受け入れるために多様な入学試験を実施しています。
 全国各地、世界各国からやってきた多様性豊かな学生たちが安心して学べるよう、今後も一層学びの機会を充実させていきたいと考えています。そして教育研究の水準をさらに高度なものとすることに努め、東京大学に入学した学生が、卒業するときに、「東京大学で学んでよかった」と心から思えるような大学にしたいと考えています。
 東京大学で学問の扉を開きましょう。皆さんの挑戦を心から歓迎します。

東京大学総長
藤井 輝夫