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小林豊准教授がThe 2020 Feldman Prizeを受賞-文化進化モデルの数理解析-
小林 豊准教授(経済・マネジメント学群)らの研究論文"Genealogies and ages of cultural traits: An application of the theory of duality to the research on cultural evolution.(文化形質の系図と齢:双対性理論を文化進化研究に応用)"が「The 2020 Feldman Prize」を受賞しました。

The 2020 Feldman Prizeは、集団生物学の理論研究における主要な学術誌Theoretical Population Biologyに、2017年〜2018年の2年間で掲載された論文のうち、最も優れた論文に贈られます。

The 2020 Feldman Prizeについて

数理生物学を専門とする小林准教授は、進化ゲーム理論、文化進化論などに基づく数理モデルの分析を通して人類と社会の進化の本質を理解し、その知見を、長期的な将来予測や様々なスケールの社会問題の分析に応用する研究を行っています。

遺伝学には、生物集団からサンプルされた複数個体の遺伝情報を用いて、それらの系図や祖先の状態を復元するための理論があり、「コアレセント理論」という呼び名で知られています。本論文では、このコアレセント理論を、人類集団の持つ技術や知識、慣習などの文化形質の進化研究に応用し、人類集団から抽出したサンプル個体の文化的な系図を推測するための数理モデルを構築しました。
ある生物個体がもつ任意の遺伝子には、必ず一個体の親が存在します。一方で、文化形質にはこのような制約がないので、一つの形質が複数の個体から受け継がれることがあるだけでなく、そもそも個体が当該形質を誰からも受け継がないということがあります。こうした性質により、文化形質の系図は、遺伝子のそれに比べると、より複雑で興味深いものになります。
下図において、円は個体を表しており、時間は上から下に流れているとします。染色体上で、ある特定の位置にある遺伝子に限定して考えるとすると、遺伝子の系図は通常(a)のように逆さまの樹状構造を取りますが、文化形質の系図は、上述の性質から、(b)のように枝分かれしたり途中で途切れたりすることが分かります。この複雑な系図を記述する数理モデルを導出するにあたって、本論文では、コアレセント理論の数学的な基礎をなす「マルコフ過程の双対性理論」という理論を活用しました。

この数理モデルを用いると、ある文化形質を持っている個体が集団中で占める割合(頻度)や、文化形質の起源の古さなどに関して、様々な予測が可能になります。
例えば、下の図は、100人の集団から20人をサンプリングしたとき、ある特定の頻度(水平軸)と古さ(奥行)をもつ文化形質の数(縦軸)がどのように決まるかを示すグラフであり、論文中では「齢・頻度スペクトラム」と呼んでいるものです。興味深いことに、齢・頻度スペクトラムは、変数の値を変化させていくと、ある点で一種の相転移を経て全く異なる形状をとるようになることを明らかにしました。具体的には、社会的な繋がりを表す変数(K)と文化形質の伝わりやすさを表す変数(β)の積が1より小さいサブクリティカル相(左の図)では、新しくて稀な文化形質だけが観察されますが、積が1の近傍(中央の図)で急激な形状の変化が生じ、1より大きいスーパークリティカル相(右の図)では、極めて古く、かつありふれた形質がたくさん観察されるようになります(右奥の尾根状の構造)。
将来、こうした理論的予測をデータと合わせれば、実際の集団の社会的繋がりや文化形質の伝わりやすさを推定したり、特定の文化形質がいつ生み出されたのか推測したりすることができる可能性があります。現在は、このような応用を視野に入れ、データとモデルを結びつける方法について研究が進んでいます。

本受賞について小林准教授から「大変光栄に思います。本受賞をきっかけに、一人でも多くの研究者や学生が文化進化の理論に興味をもってくれることを願います」とコメントが届きました。

※詳細は下記URLをご覧ください。
https://www.kochi-tech.ac.jp/news/2020/004810.html target=_blank