美術学部

学科概要

日本画

学科・専攻概要

 絵画科日本画専攻における教育研究は、現代絵画としての創造性の追求と同時に、わが国美術の伝統技術・精神を継承し、これを発展させることを主軸に据えています。

 これは1887(明治20)年、本学の前身である東京美術学校創立時から一貫した理念であると同時に、現代を生きる作家、また美術教育に携わる者として常に意を払う命題と考えています。そして、この『伝統を基盤とした現代絵画の創造』という命題こそが、現代絵画のなかにあって、様々な要素を内包しつつも一定の独自性を貫く「日本画」という一領域を確立し、多くのすぐれた作家・研究者を輩出するにいたる根幹となっています。

 また、今日では、人々の価値観や生活スタイルの変化に伴い、美術のみならず日本を取巻く環境は地球規模で大きく変化しています。この国際的な変革期のなか、「日本画」を支え、成り立たせてきた素材や美意識が、どのように生み出されてきたかを理解し、「日本画」の今後を担う問題意識と意欲をもちつつ現代的な絵画表現を研究する若い作家、研究者を育成することが本学絵画科日本画専攻に課せられた使命であり、理念でもあると考えています。そして、このような自国の伝統文化への深い理解と考察は、同時に表現に対する真摯な問いかけでもあり、真の国際化に向けての第一歩であると考えています。


油画

学科・専攻概要

 1896(明治29)年、東京美術学校に西洋画科が設立されて以来、欧州の同時代の絵画思潮を移入摂取しつつ、日本という土壌での油画の展開が本学においても連綿と続けられてきました。
 1933(昭和8)年、西洋画科は油画科と改称し、1949(昭和24)年東京藝術大学が設置されると、絵画科油画専攻となり現在に至っています。
 西洋絵画における物の見方や方法論、技法、材料、またその表現から読み取れる意味等、様々な背景が徐々に理解、受容されると共に油画の教育もその実質を変えてきました。設立当初より本専攻は、国際化の一翼を担って近代化する日本文化を先導し、その気運は、第二次世界大戦後もそのまま受け継がれてきたと言えます。

 従来の絵画や彫刻といったカテゴリーでは捉えられない表現が現れて久しい今日、本専攻は、そうした時代の変化に対応するべく、それまでの絵画表現を基軸とした教育方法を堅持しつつも、写真、映像等、多様なメディアまで拡張された表現に対する研究教育推進を行ってきました。

 現在油画専攻は、前記二方向を包括する教育研究プログラムを実施しており、絵画全般に渡る領域を視野に入れつつ、世界に発信する日本独自の絵画芸術の研究拠点として、多様化した表現を統合する新しい絵画の概念を構築すると共に、伝統的技術から先端技術に跨がる様々な表現媒体を駆使して表現していく若い芸術家、研究者の育成を目指しています。


版画

学科・専攻概要

 版画は、機能的な側面としての「メディア性、間接性」、素材の持つ「物質性」、そして様々な版種における「強固な形式」を持つ魅力的な表現媒体であると考えます。

 版画研究室では、銅版、リトグラフ、木版、スクリーンプリントの主要4版種の実習を通じ、基礎的版画技術を修得し、各版種の特徴的な表現への理解を深めるとともに、版画が印刷媒体としての機能から出発して、様々な芸術ジャンルを包括しながら進んできた歴史的、社会的背景も踏まえた創作・研究を深めていきます。1970(昭和45)年以来、油画専攻3年次からの移行、所属を受け入れ、学部2年間の版画基礎教育を行い、学内共通工房としての役割を併せもつ本研究室は、1967(昭和42)年以来、油画、日本画、デザイン科(昭和50年まで)、芸術学科、美術教育に門戸を開放し、基礎技法、基礎技術の教育を集中講義の形態で担当してきています。それぞれのカリキュラムに従って絵画芸術教育の一翼を担いつつ、徹底して版表現に絞った教育と研究をしており、我が国の伝統文化である木版をはじめ、各版種とも堅実な基礎技法、技術の修得および素材研究を土台として、国内にとどまらず国際的にも活躍できる表現者、幅広く社会に貢献できる専門性を持った人材の養成に努めています。


壁画

学科・専攻概要

 壁画研究室の設立は、1957(昭和32)年、フレスコが油画実技の授業として採用されたことに遡ります。1960(昭和35)年、油画専攻にフレスコ研究室が新設され、1962(昭和37)年、モザイク実習が採用されます。1963(昭和38)年、大学院設置にともないフレスコ研究室が設置され、翌年「版画・壁画研究室」となりました。
 1969(昭和44)年、壁画部門と日本画古典模写部門が合同し「壁画研究室」として独立します。1972(昭和47)年、ステンドグラスが油画授業に採用され、翌73(昭和48)年、日本画古典模写部門が壁画研究室から分離し、壁画研究室は壁画第一研究室、壁画第二研究室の二つの研究室による油画の一講座として体制が整い、現在に至ります。

 壁画研究室はフレスコ・モザイク・ステンドグラスの専門的な教育・研究を担ってきた歴史があり、それは、現在においても変わりません。建築物や住環境と一体となって表現される古典技法は、壁画の基本理念、技法・材料、表現を学ぶ上で不可欠であることから、油画1年次選択科目授業として行われており、また、多くの専門的な集中講義も開設されています。

 壁画研究室の指針は、歴史的継続性を重視する一方、現代の社会に対応する新たな理論や表現を研究、模索する方向性も重視し、壁画表現における幅広い人材の育成に取り組む教育・研究活動を行っています。


油画技法・材料

学科・専攻概要

 油画技法・材料研究室では、自己表現としての油画制作を主軸に据え、各学生の絵画表現の可能性を探ります。絵画を物質面から支えてきた、絵画材料、絵画技術の側面から、「油画とはどのようなものか」「油画の成立はどうであってどのように展開してきたのか」という課題にも取り組み、実技実習、講義、演習を通して理解を深めています。実地に模写作品を試みたり、また支持体、地塗り、絵具の自家製法を試み、現在油画制作を行う上での絵画材料、絵画技術の探求に携わっています。

 油画技法・材料研究室は、学部1年次の油画専攻(日本画専攻、その他の学部1年次も含む)に対して「絵画技法史材料論」を開講し、絵画の基礎知識を、絵画材料学、絵画技法史の側面から取手校地にて授業を開講しています。さらに、油画専攻1年次を対象に「地塗り実習」を行い、木枠の組み立て、麻布の張り方、膠引き、地塗り(白亜地・乳濁液地)を行い、加えて木板(パネル)を支持体にした場合の地塗りの方法を実地に指導しています。

 絵画構造の基本を実技・実習・理論の側面を通して、総合的に学ぶ教育体制と、個人としての自律と寛容の精神のもと、学生自身の個性を尊重した教育・研究活動を行っています。

学科・専攻概要

 彫刻科の歴史は、1887(明治20)年、専修科に彫刻科(木彫)が置かれたことに始まります。その後、1899(明治32)年に塑造科が増設され、1949(昭和24)年、学制改革により東京藝術大学となると改めて彫刻科として再出発しました。

 現在の上野校地の彫刻棟は1971(昭和46)年に施工され、1977(昭和52)年には博士後期課程を開設。現在、大学院生の一部は取手校地にて制作活動を展開しています。

 彫刻科では、幅広い造形の研究に重点をおき、過去の美術の歴史や日本美術の伝統を踏まえながら世界に視野を広げ将来の美術を展望できるような豊かな感性を持つ人材の養成が重要であると考えています。また、将来作家として独創性あふれる自由な創作活動が行え、美術にかかわる諸分野での指導的役割が果たせるような人材の養成に努めています。
 1889(明治22)年に開校した東京美術学校の専修科美術工芸(金工・漆工)として始まった工芸科は、1975(昭和50)年に組織を改めて、彫金・鍛金・鋳金・漆芸・陶芸・染織の基礎及び専門課程となりました。その後1995(平成7)年に木工芸、2005(平成17)年にガラス造形を大学院に開設しました。

 2018 (平成30 )年より、漆芸(漆工・木工)、陶芸(陶・磁・ガラス造形)と改編し、木工芸とガラス造形も学部教育を開始しました。

 さらに2022 (令和4 )年から木工芸とガラス造形を併合して取手校地を中心に教育研究を進める、素材造形(木材・ガラス)を開設しました。学部は7分野、大学院は14の研究室からなり、学生の学びたい専門領域で、深く研究し自由に資質を伸ばしていける体制をとっています。

 美術は時代とともにその役割も様々に変化してきました。そのなかにあっても、歴史に裏付けされた伝統に基づく工芸の技術や精神は、人間にとって最も身近にある芸術領域として一貫して人々の生活の中で輝きを放ってきました。素材を見極め伝統的な技法を基に制作される工芸作品は、人々の生活の中で大きな感動を与えるものです。

 本学の工芸科は、基本を学び、現代の多様化する社会における価値観や技術を吸収しつつ、さらなる発展をなし得る能力を身につけたアーティストを養成します。工房制作を中心とした少人数制による個人指導によって、実技修練と創造性の開発を図ります。また、国際交流や地域連携にも力を入れ、工芸科としての特色を活かした研究活動や社会活動にも取り組んでいます。


工芸

学科・専攻概要

 1年次は工芸研究室に在籍し、各専門領域において必要となる基礎的な力を育むために幅広い教育に取り組み、美術全般と工芸領域に関わる基礎的な表現力、造形感覚を養います。

 上野校地にて、工芸分野の実材実習に加え、他科の講師を招き様々な技法や価値観に触れ、多角的な視野と総合的な造形力を養うカリキュラムとしています。各専門領域の教員による指導のもとでの実習制作を通し、その専門領域特有の素材・技法の魅力を体験していきます。1年間の経験をもとに2年次からの分野を選択します。2年次からは各分野に分かれ専門技術の習得を通して自己表現の確立を目指し、将来各分野において活躍しうる人材の育成をしていきます。また、芸術祭では美術学部と音楽学部の各科1年生が、共同で法被と巨大な神輿を制作することも特徴のひとつです。共同制作によって、個人制作では養えない経験や知識、人との信頼関係も築き上げられ、将来に生かされています。


彫金

学科・専攻概要

 1887(明治20)年に本学美術学部の前身である東京美術学校が創立し、彫金は当初から金工として本学の歴史に名をとどめています。初代教授であった加納夏雄が帝室技芸員となり、美術・工芸の最大の栄誉である皇室の保護を受けました。次いで同じく帝室技芸員となった海野勝岷が教授となり、室町時代から続いた門外不出とされていた数々の伝統的な彫金技法を公開し、本学の教育の中で体系化しました。指導のために制作された手板が多く残され、今日に至るまで基礎技法の授業に資料として多く活用されています。この誇るべき彫金技法を時代の流れのなかで脈々と受け継ぎ、素材の可能性を探り、絶えず新しい表現・造形を生み出し、優れた彫金作家を輩出しています。

 鏨などの工具整備に始まり、「彫り」「打ち出し」「象嵌」「接合」「色金」「七宝」等の伝統技法を基礎課題の中で学び、素材への知識を深めます。さらに彫金技法とジュエリーの分野を設け、生活空間全体を意識した専門性の高い指導を行っています。これに基づいて、逐次高度な知識と技術を修得し「装身具」「クラフト」「オブジェ」など、それぞれのテーマで創作表現の在り方、自己表現を研究して制作を行っていきます。表現のための確実な技術を身につけ、その上で新しい個性を築き活躍できる人材を育てています。


鍛金

学科・専攻概要

 1895(明治28)年に東京美術学校美術工芸科の中に鍛金科として開設、平田宗幸が初代教授となりました。
 鍛金では、金属の塑性加工法である絞り技法・鍛造技法、接合技法である溶接・ろう付け等の伝統技法から、機械切削加工など現代の金属加工技術まで幅広く身につけます。
 また個々の主体性を尊重し自由なテーマで研究制作を行い、個別指導や面談を通して金属による野外モニュメントからオブジェ、カトラリー、装飾品にいたるまでの幅広く自由な表現力を養う事を目標としています。
 卒業後は鍛金での研究制作を通して培われた豊かな造形力と感性を活かし、作家として創作活動をする者をはじめ、建築・空間環境、自動車、ジュエリー、広告、ゲーム等のデザイナー、教育者など様々な分野で活躍しています。


鋳金

学科・専攻概要

 1892(明治25)年、東京美術学校美術工芸科のなかに鋳金科として開設、岡崎雪声、大島如雲が教官となり、津田信夫、香取秀真、高村豊周、内藤春治、など近代の工芸を牽引した人材を輩出しました。1949(昭和24)年、東京藝術大学が設置されると、工芸科鋳金専攻となり、1963(昭和38)年に大学院美術研究科修士課程を、1977(昭和52)年に博士後期課程を設置し、現在に至っています。丸山不忘、内藤春治、蓮田修吾郎、鈴木信一、西大由、原正樹、戸津圭之介ら歴代教授ほか、非常勤講師に西村純一、宮田宏平、西村忠などの教官が教育にあたりました。鋳金の教育、研究、制作、人材育成と共に、楠公馬上像(皇居前広場)、西郷隆盛銅像(上野公園)、国会議事堂大扉、皇居二重橋高欄及び飾電燈、薬師寺東塔水煙修復及び複製制作、薬師三尊像修復、東大寺大仏の調査研究などの文化財調査修復に関しても多くの実績を残しています。


漆芸

学科・専攻概要

 漆芸専攻は、東京美術学校創設時に美術工芸科漆工として始まり、後に工芸科として他の工芸部門とともに一本化され、2018(平成30)年度より現在に至ります。

 英語の小文字japanが19世紀の英国では日本製蒔絵の偽物を表したほど、漆芸は海外において日本を代表する芸術としての認識を得ています。本学は世界中にある漆芸の研究教育機関としては最古の歴史を有し、多くの人材、情報が集まり、国内外の中心を担っています。

 天然の素材である漆を塗料、接着剤、造形素材、絵画材料として多角的に研究、教育を行っています。 漆素材を柔軟に使いこなし、生活に寄与する作品や絵画的・造形的な美術作品を作り上げ、幅広く活躍できる漆芸作家を育成し、あわせて教育者、研究者などとして幅広く活躍できるように教育をしています。

 漆芸研究室内に専用のギャラリーを設け、学生や教員の研究成果、漆芸研究室の所有する豊富な道具・材料等の資料を展示し、幅広く漆芸の一般公開につとめています。
 さらに、国内外の大学機関、行政との共同研究を進め、今後の漆芸の有り方について情報交換を行い、ネットワークを構築して発表しています。


陶芸

学科・専攻概要

 陶芸研究室では土を使用したアート表現を探求し、伝統技法や素材理解を基本とした工芸的思考を深め、さらなる新しい表現を目指しています。
 学年の進行と共に素材研究から生まれる造形性を重視した教育へと発展して行きます。
 学生自身の柔軟な発想力を生かしながら実技の積み重ねによって、創造性に溢れ広い視野を持った、第一線で活躍できる人材の育成を目標としています。技術面では、轆轤成形、築窯実習、登窯をはじめ多様な窯の焼成実習、釉薬の調合、デザイン性を主とした石膏鋳込み成型など、多岐にわたる現代の陶芸の基礎的な技法を広く学ぶことができます。独自の発展を遂げた日本の陶芸は、世界からますます注目されており、その伝統を礎として海外との交流にも力を注いでいます。
 

染織

学科・専攻概要

 日本の染織は、我が国の民族衣装である「着物」特有の形体と機能、そして人々の美意識との相乗効果により、世界に類を見ないほど高い水準に達しています。
 染織分野は1967(昭和42)年に開設された当初から、伝統の染織技法を基本として現代の技術や感覚と融合することで新たな繊維造形の可能性を探求しています。
 染織と繊維や色彩に関する豊富な知識と高い造形力を身につけ、デザイナーやアーティストとして幅広く活躍できる人材の育成を目標としています。


素材造形(木材・ガラス)

学科・専攻概要

 1995(平成7)年度に木工芸、2005(平成17)年度にガラス造形として工芸科の大学院に開設され、2018(平成30)年度より漆芸(漆工・木工)、陶芸(陶・磁・ガラス)として学部に改編されました。
 2022(令和4)年度より新たに素材造形(木材・ガラス)分野となり、工芸科の学部の1分野として稼働しています。

 素材造形分野では、選択した木材またはガラスを主に扱いそれぞれの造形・技法を、演習を通して学びます。木材の演習では、木工に必要な道具の仕立てから、各種基礎技法の演習、総合技法としての家具制作や、木材造形を学びます。ガラスの演習では、ホットワーク、キルンワーク、コールドワークなどガラス造形に必要な技法を学びます。取手校地にある様々な工房を利用しながら、素材を通して思考する造形を目指し、卒業・修了制作では自立した研究制作ができる人材育成をします。

学科・専攻概要

 本学におけるデザイン教育は、東京藝術大学の前身である東京美術学校(1887年創設)に1896(明治29)年に設置された図按科から始まりました。今日まで1世紀余りの間、社会構造の変化や文化認識、生産システムの変化など、様々な時代変動のなかで本学科は常にその時代における生活文化をつくりあげてきた原動力としての一翼を担ってきました。
 創設以来、本学科の教育理念は一貫して伝統に培われた幅広い教養と高い造形力の追求、時代を創造する真摯な創造精神の育成にあります。この理念のもとに今日まで多くの優れた人材を世に送り続けてきました。
 今日では文化が多様化し、情報化の流れのなかで生活の原点に対して根源的な問いかけと答えが求められています。本学科では「生活の用と美」「伝統と革新」という教育理念を再確認し、その問いに答えていきます。

学科・専攻概要

 東京藝術大学美術学部建築科は、本学の前身である東京美術学校(1887年創設)のもとに、「図案科建築教室」が設置されたことから始まりました(1902年)。その後1923年に「建築科」となり、今日まで日本の建築界を代表する多くの建築家を輩出してきました。

 本科が他大学の建築学科と大きく異なる点は、日本の多くが属する工学系ではなく美術系に属し、建築家の養成を目指す唯一の国立の教育機関であることです。

 もうひとつの特色は、教育の軸を建築設計に置いている点です。建築設計実技を通して建築の知識や技術を学び、建築家として必要な総合的能力を養います。専任教員9人に対し1学年の定員は学部15人・大学院修士16人という少人数の恵まれた教育環境によって、それらの方針は初めて可能になります。個性と創造力を伸ばすために、自由かつ緊密な教育が行なわれています。

学科・専攻概要

一九九九年四月、先端芸術表現科は、美術学部の新設学科として生まれました。
東京藝術大学にそれまであった学科は、絵画や彫刻など、特定のメディアを研究・教育していく枠組みをとっていました。
本学科設置申請を行った趣意書には、「社会に対し積極的に活かす複合造形研究の視座に立って、急務としてある情報と環境に関わる新しい時代の造形表現の可能性を追求するため」と設立の趣旨がまとめられています。
このように、先端芸術表現科は、当初より、メディアを横断する学科として構想され、当時、一般化していったパーソナル・コンピュータを活用したメディア・アートを含む多様な領域について研究を行い、学部の学生についても、美術および隣接する表現を、幅広く、総合的に教育するカリキュラムをめざしました。

 第一期生三〇人と当時の教員は、未開拓であったプログラムを、新たに模索するところから始めました。やがて、学生と教員がともに、考え、学び、制作を行うスタイルが固まっていき、学部カリキュラムが整備されるなか、二〇〇三年には、大学院美術研究科(修士課程)先端芸術表現専攻、二〇〇五年には、博士後期課程が設置され、完成年度を迎えました。
大学院においては、自らの専門性は何かを模索して生きた学生が集う場となりました。
先端では、先端芸術表現科出身の学生ばかりではなく、本学の他学科、他学部、また他大学からの出身者も、特定の領域に偏ることなく、さまざまな教育を受けた学生を受け入れています。メディアを横断する本専攻の特色は、さらに深化しています。

 学科設置からすでに、二十年余りが経過しました。先端芸術表現科および、先端芸術表現専攻は、二〇〇一年にメディア教育棟が竣工してからは、写真、工作、コンピュータ、映像、音、身体などさまざまな分野のスタジオを核として、学部、大学院の教育・研究を一貫して行ってきました。視覚表現のなかでも、映像が大きな役割を果たしつつある今、映像リテラシーの教育も大きな意味を持っています。また、文化人類学や社会学の達成を踏まえたフィールドワークも、リサーチの方法として重視しています。
この間、横浜校地に新設の映像研究科、千住校地に音楽環境創造科が設立されるなど、これまでの美術学部、音楽学部二学部を主体とした教育組織も、時代とともに変化していきました。

 これまで美術学部のほとんどの学科は、学部一年生の教育を取手校地で行ってきましたが、大学全体の方針として、一年生の教育を上野校地で行うことになりました。先端芸術表現科も、二〇十六年から、上野キャンパス絵画棟一階アートスペースを拠点として、一年生の教育を行っています。
こうした周辺の状況の変化とともに、先端芸術表現科および先端芸術表現専攻は、インターネットの急速な進展を踏まえ、グローバル化する社会に対応すべく、研究の幅を広げています。

 多様なバックグラウンドを持つ常勤教員は、設立以来、それぞれが主宰する研究室に、学部三年生から学生を受け入れてきました。構成メンバーによって、研究・教育の実質的な内容が、常に変容していくのは、先端芸術表現科では当然のこととされています。先端芸術表現科の英語名であるI n t e r – m e d i a  A r tは、この学科の精神を現す重要な概念ですが、現在では、それとともに、多様性、ダイバーシティのような言葉が、この学科の追求すべき理念にふさわしいと考えています。

 二十一世紀と先端芸術表現科の歴史は、抜き差しがたく重なっています。テロリズムや内戦は、この世紀も収まる気配さえありません。パンデミックは、人と人とのコミュニケーションを分断し、社会は孤立と絶望を深めています。
私たちは、表層的なことどもや一時的な流行にとらわれることなく、現在性のある問題を、日本ローカルではなく、国際的な視野を持って、根源的な場所から思考することが求められています。
そのなかで私たちは、欧米先進国に留まらず、アジア・オセアニアなどの多様な文化を受容し、他者とともに、共生、共創する意志を固めています。人類の大きな課題となっているジェンダーの問題、データを軸として新たな知見を追求するデータサイエンス、人間の労働環境と深く関わる人工知能(A I)、自然環境と地域社会を考える里山の構想などを、新たな研究テーマとして構想しています。

 先端芸術表現科、および先端芸術表現専攻は、これまでも国際的な場で活躍するアーティスト、表現者を多数、輩出してきました。
卒業後、修了後の進路は、ここにすべてを網羅することがむずかしいほど、多岐にわたっています。先端芸術表現科ならではのユニークな人材が、社会の中で、広範囲に活動しています。
私たちが誇りとするのは、専門的かつ広範囲な美術教育を受けた卒業生が、ひとりの市民として、職業を選択し、自らの人生を追求しているところです。
先端芸術表現科の歩みは、まだ、はじまったばかりです。新しい海図をもって、道のない自由な旅に出かける決意を、私たちは固めたところです。

学科・専攻概要

 芸術学科は、1949(昭和24)年、新制の東京藝術大学美術学部が発足した際に、旧制の東京美術学校に設けられていた師範科に代わって設置されました。東京美術学校は成立当初から、日本近代における美術史や美学の研究について重要な貢献をしてきました。新制大学の成立にあたって、こうした美術に関わる学問分野が独立して芸術学科となったのです。

 成立当初から、芸術学科の目的は美術理論・実技兼備の人材の養成にあり、この基本方針は、現在に至るまで堅持されています。その一方で学科の組織は、美学・美術史の充実に重点が置かれるかたちで整備され、また美術解剖学等の美術に関連する諸学科がその周辺に設けられました。こうした体制の下、芸術学科はこれまで、美術館学芸員、美術批評家、研究者、ジャーナリスト等、美術に関わる幅広い分野に、多くの優れた人材を送り出してきました。

 こうした歴史を踏まえ、今日の芸術学科は、作品の制作を体験し、美学、美術史学を通して美術を中心とする諸芸術に関する認識を深めることで、理論的分析や解釈をもって多様な芸術の分野に貢献できる人材の育成を、その教育理念としています。
 

施設

 美術教育の重要な一分野である古美術研究の拠点として、奈良市内に設置している教育実習施設。

 奈良、京都を中心に存在する飛鳥以降の各時代の建築物、絵画、彫刻、工芸品等日本古来の優れた作品の研究を行い、カリキュラムの一環として実施される古美術研究旅行や、教職員・学生の古美術研究及び実習に利用されています。

 同施設は古美術研究旅行、教員の古美術研究に優先使用されますが、それ以外の時は一般学生の研究旅行に利用できます。

 利用に際しては、古美術研究施設事務室に利用予定日を連絡・確認の上で、美術学部会計係に使用届を提出のこと。
 写真センターは写真を中心とした視覚芸術に関する研究の増大を目的に開設されました。

 設備として、白黒暗室(引き伸ばし機5台)、カラー暗室(引き伸ばし機3台+2台)、大伸ばし用引き伸ばし機2台、大型カラープリンター、リニア及びノンリニア・ビデオ編集機器などを有し、ほか大判、中判、35ミリ・フィルムカメラ、デジタル一眼レフカメラ、デジタルビデオカメラ、スタジオ用照明器具、等、撮影全般に用いる機材を有し、一部備品の貸出業務も行っています。

 開設授業として「写真表現演習U」、「写真映像論」、「現代写真論」があり、ほか集中講義も実施しています。

 加えて、白黒フィルム現像、白黒及びカラー暗室作業、スタジオワーク、大型プリント、等、初心者対象の講習会や各科演習授業を行っています。