モバっちょ


事故のような偶然に興ずる
山岸 純平(やまぎし じゅんぺい)
大学院総合文化研究科 修士課程 1年

 僕は今、細胞の代謝系を物理学と経済学の理論から捉えるという研究をしています。最初のきっかけは、高校2年生の冬、教養学部の金子邦彦教授と、金子研で博士号を取得した作家円城塔氏の著作を読んだことでした。

 両氏の著作を読み終えた瞬間、これこそが僕の進むべき道だと感じた、というわけでは、もちろんありませんでした。これまで読んだ中で一番面白い本/小説だ、とは思いました。同じような知的興奮を求めて近い分野の本を何十冊か読み比べた後で、東京大学に入って金子先生のもとでカオス力学系と物理学を学び研究できれば最高だ、と思うようになりました。嬉しいことに学部1年生の時点で金子先生のご指導を賜る機会が得られ、生物学にも興味を抱き、医学部へ進学してから教養学部に転学部し、今に至ります。

 この現況を、ミステリ小説と哲学の入門書を読み漁っていた高校1年生の頃の僕は、欠片も想像できていませんでした。僕の同期の過半数も似たような状況にありますから(笑っちゃうくらい進路が想像通りの友人も少なくはないですが)、東京大学にこれから入学する皆さんの多くもきっと同じでしょう。

 大学以降はみんなの足並みが揃わなくなるので紆余曲折の理由は人それぞれでしょうが、僕の場合は、先生や先輩方との会話がその最たる原因でした。私見では、少なくとも高校大学のうちは、同級の友人の影響が不断ながら連続的である一方、自分では考えもしなかったような不連続な転機は上の世代から降ってくることが多いようです。ともあれ、東京大学には暇な時に相手をしてくれる先生、先輩、友人、名も立場も知らぬ人たちがたくさんいるおかげで、面白い漫画から未知の学問分野のエッセンスまで、主に雑談を通して多くの大切なことを学べています。

 流れの中で立ち止まってこれからする経験の意味を打算し、衝突事故じみた偶然を飼い慣らそうとしても無益です。好き嫌いという感情を何より信じ、少しでも興味を抱いたことに首をつっこみ続けるならば、いずれ、過去の経験が点としてではなく一筆書きの折れ線として今に繋がってくることと思います。