総合研究大学院大学
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RNA干渉とヘテロクロマチン
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村上洋太
京都大学ウイルス研究所助教授

 染色体のテロメアやセントロメアなどの領域には、ヘテロクロマチン構造が形成されていて、転写や組換えが抑制されている。その領域のクロマチンは凝縮した、特徴的な高次構造(ヘテロクロマチン構造)を形成し、そのヒストンタンパク質は、特異的なメチル化といった化学修飾を受けている。ヘテロクロマチン構造は染色体の正常な機能を維持するために重要であるだけでなく、発生・分化における遺伝子発現の制御にもかかわっている。

 一方、RNA干渉とは、20〜25塩基の小さな二本鎖RNA分子を介して、遺伝子発現を抑制するシステムである。この小さなRNAはshort interfering(干渉)RNA、略してsiRNAと呼ばれる。siRNAは、RNA分解活性をもつタンパク質複合体に一本鎖RNAとして取り込まれ、それと相補的な配列をもつメッセンジャーRNA(mRNA)を分解して、遺伝子発現を阻害するのである。RNA干渉は、もともと細胞に侵入してきたウイルスやトランスポゾン(可動性DNA)などに対する防御機構として進化してきたシステムである。

 RNA干渉には、siRNAやsiRNAに結合するタンパク質複合体のほかに、siRNAを作り出す酵素など、いくつかの因子が関与している。最近の研究により、こうしたRNA干渉関連因子群が、ヘテロクロマチン構造の形成・維持を行っていることが示され、注目を浴びている。

 分裂酵母には、高等真核生物と類似したヘテロクロマチン構造がみられるが、分裂酵母のセントロメアヘテロクロマチンを解析した結果、次のようなことが見いだされた。簡単にいうと、まず染色体のヘテロクロマチン領域で転写が起こり、非コードRNAが生み出される。次に、RNA干渉関連因子群の働きで、その非コードRNAからsiRNAが形成され、そのsiRNAを含むタンパク質複合体がもとのDNA配列に結合して、その部分にヘテロクロマチン構造が形成されるというものである。

 詳しい反応過程を図に示した。非コードRNAとは、タンパク質をコードしない(タンパク質を発現しない)RNAである。そのRNAに対して、RNA依存的RNAポリメラーゼという酵素の複合体が作用し、RNA分子が二本鎖になる。その二本鎖RNAを、RNA分解酵素のダイサーが短く切断し、siRNAを生産する。次に、RITSと呼ばれるタンパク質複合体が、このsiRNAの一方の鎖を保持して、おそらくは非コードRNAとの相補性を利用してsiRNAと相同な染色体領域に結合する。そして、RITSの働きにより、ヘテロクロマチンに特異的なヒストンメチル化酵素が、その領域のヒストンをメチル化し、ヘテロクロマチン構造が形成・維持されると考えられている。

 興味深いことに、マウスやニワトリの細胞でも、セントロメア領域のヘテロクロマチン構造が、ダイサーに依存することが示された。脊椎動物でも分裂酵母と同様に、RNA干渉がヘテロクロマチン形成にかかわると考えられる。

 当初ヘテロクロマチン領域で、非コードRNAの転写を行う酵素、RNAポリメラーゼの種類は不明であった。この酵素にはI、II、IIIの3種類が存在し、作用する遺伝子の種類が異なる。最近、われわれは分裂酵母で、主にタンパク質をコードする遺伝子の転写を行うRNAポリメラーゼIIがその転写を行うことを示した。さらに、非コードRNAの転写は行えるが、その後のsiRNAの形成ができなくなるRNAポリメラーゼIIの変異株を単離した(Kato et al. Science, 2005, 309:467-9)。これはヘテロクロマチン領域中での非コードRNAの転写とその後のsiRNA形成の過程が、酵素RNAポリメラーゼIIによって共役されることを強く示唆している。そのほかにも、RNAの核外輸送やスプライシングなどのRNAの運命決定過程や、DNA損傷修復やクロマチン修飾といった現象が転写と共役していることが近年明らかにされつつある。

 どうやら、染色体・核内のさまざまな機能が、転写と共役しているらしい。さらにごく最近、真核細胞の染色体の多くの領域でRNAポリメラーゼIIによる非コードRNAの転写が起こっていることが示された。RNA干渉とヘテロクロマチンの問題は、単にヘテロクロマチン形成過程の解明だけにとどまらず、これら非コードRNAの転写が、染色体機能・核機能においてどのような役割を果たしているかを考える上で、重要な示唆を与えるものとなるだろう。

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